東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)127号 判決
一 請求の原因1ないし3の事実については、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決を取消すべき事由の有無について判断する。
(取消事由(一)について)
1 原告は、審決の指摘する相違点<3>についての判断の誤りとして、まず、本願発明が密封と配向とを同じ温度で行うことによつて融着密封するために配向が崩れるおそれのある温度にまで更に加熱することが不要になるという重要な効果を奏する点を看過した旨主張する。
本願発明の特許請求の範囲が、請求の原因2(本願発明の要旨)記載のとおりであることは当事者間に争いがないところ、その特許請求の範囲の記載を検討するに、モノ―1―オレフインの結晶性重合体を管状に押し出し、少なくともその管状押出物の外面を結晶状態になるまで冷却したのちの処理に関しては、「この管状押出物を重合体の結晶融点に近いがそれより低い温度に加熱し、次いで該管状押出物を成形型に内部を密封させて閉じ込め、該管状押出物の壁を延伸して重合体を配向させる」との記載があるにすぎず、内部を融着密封するための密封温度については記載がない。しかも、成立に争いのない甲第三号証(昭和四四年一月五日付手続補正書による訂正明細書)によれば、本願発明の明細書の発明の詳細な説明には、加熱されたモノ―1―オレフインの結晶性重合体の管状(チユーブ)押出物を密封及び延伸配向させる成形型に関して、「チユーブの一端が、瓶の底部を形成する成形型の底部部分41により挟み閉じられる。加熱エレメント42を、挟み閉じられたチユーブの部分を加熱するために、成形型のこの部分に配置することができ、これにより効果的な密封が形成される。成形型の残部が、コイル43を経て冷流体を循環することにより冷却される。」(一四頁二〇行ないし一五頁六行)(第2図参照)と記載されていることが認められ、この記載に徴すると、モノ―1―オレフインの結晶性重合体の管状押出物は、成形型内に挿入された場合、密封されるべき部分は効果的な密封ができるように更に加熱され、一方、延伸配向される部分は循環する冷流体によつて冷却されることになるものと理解される。右の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の各記載に照らしても、原告主張のごとく、「結晶融点に近いがそれより低い温度」を密封温度であると同時に配向温度として採用したことを本願発明の構成要件ないし特徴点とみることはできない。
本願発明においては、管状押出物の内部密封温度が同時に配向温度でなければならないわけではなく、前記引用の発明の詳細な説明における具体的説明のとおり、融着密封するための温度と管状押出物の壁を延伸配向するための温度とが同じでない場合もあるものと解さざるをえない。
したがつて、審決が本願発明における密封と配向とを同じ温度で行うという重要な特徴を看過した旨の原告の主張は、その根拠を欠くものといわざるをえない。
2 ところで、本願発明が管状押出物の内部密封と延伸配向とを同じ温度で行うものであるとしても、モノ―1―オレフインの結晶性重合体の配向した中空物品の製造にあたつて、管状押出物の加熱温度として配向が可能であり、しかも、密封にも利用できるような温度であるところのその「重合体の結晶融点に近いがそれより低い温度」を採用することは、次に述べるとおり、当業者が普通にしうることである。即ち、第二引用例には、審決認定のとおり、「管状に押出した結晶性ポリプロピレンの溶融フイルムを急冷し、一定温度以上で、融点近くの温度の範囲内に加熱して延伸するようにした結晶性ポリプロピレンフイルムの延伸方法」が記載されていることは、原告も認めるところであり、右記載にみられるように、一般に、結晶性の熱可塑性合成樹脂を延伸するに際しては、その合成樹脂のガラス転移温度以上で融点以下の温度範囲に加熱することは技術常識に属する事項であり、また、これと同時に、密封のための融着に関しても、例えば、成立に争いのない乙第二号証及び同第三号証には、薄いフイルムの接着について「軟化温度近くまで加熱した治具の間に材料を入れて軟化圧着して溶接を行う」(昭和三九年八月一五日発行の乙第二号証四〇〇頁八行、九行)、「ポリエチレンのシートを重ね合せ、その対向面をポリエチレンの融点以下少なくとも五度Cないし融点以上高くても一五度Cの間の温度に加熱し、接合部に機械的圧力を加えることによつて、ポリエチレンの厚いシートが得られる。」(昭和三二年五月二七日特許庁資料館受入の乙第三号証四三二頁一五行ないし一八行)との記載があるように、熱可塑性合成樹脂からなる製品の融着は、通常、その合成樹脂の軟化温度以上融点の前後において実施されるものと認められるからである。
したがつて、本願発明が管状押出物の加熱温度として配向ができ、しかも、密封もしうる温度である「結晶融点に近いがそれより低い温度」を採用したものとしても、加熱温度をこのように限定することは、当業者が必要に応じて容易にしうることと認められるから、審決の相違点<3>についての判断には誤りはない。
(取消事由(二)について)
次に、原告は、審決の指摘する相違点<2>についての判断に関して、本願発明においては、加熱工程の直後に管状押出物の密封と同時に延伸配向を行う工程を配置し、最後の工程として切断工程を配置したものであるから、審決が第一引用例との相違点<2>について単なる構成の変更にすぎないと判断したのは誤りである旨主張する。
管状押出物が加熱されたのちの、密封及び延伸配向などの工程に関して本願発明の特許請求の範囲には、「次いで該管状押出物を成形型内に内部を密封させて閉じ込め、該管状押出物の壁を延伸して重合体を配向させるように成形し、次いで該管状押出物の密封個所から隔つた点を切断する」と記載され、かつ、前掲甲第三号証によれば、本願発明の詳細な説明には、「成形型が、押出成形チユーブのまわりに閉じられた後、クロスヘツドダ31イスに注入される内部ガス圧力により瓶を形成する成形型の壁にチユーブが押付けられる。………加圧空気をチユーブ内に用いる代りとして、チユーブと成形型壁との間の空間を排気するための手段を瓶成形型内に設け、それによつて成形型内で、整調されたチユーブを真空形成することもできる。」(一五頁六行ないし一六行)との記載のあることが認められ、これらの記載に基づくと、本願発明においては、管状押出物を成形型内に内部を密封させて閉じ込めてから、その成形型内において延伸配向させて成形し、最終の工程として成形品を切離すものを含むと解される。
一方、成立に争いのない乙第五号証によれば、本願発明の特許出願についての優先権主張日前において、「予め袋体又はパイプ状にしたビニール、ポリエチレン等の合成樹脂を型内に挿入したのち、加熱状態においてこれに圧搾空気を圧入後、冷却して瓶体その他の中空体を形成すること」は、周知のことであり(一頁左欄九行ないし一三行)、かつ、乙第五号証の瓶体その他の中空体の成形品も、成形後製品として不要な部分から切り離されて製品となること(一頁右欄一〇行、一一行)が認められ、更に、成立に争いのない乙第六号証によれば、これは、右優先権主張日前の出願公告にかかる特許公報であるところ、これには、塩化ビニリデン系樹脂成形品の製造方法に関して、「重合体を………管状に押出し、二つ割りの金型でこれを挟み空気注入口より空気を圧入し、管状重合体を所望の形状に成形すると、瓶等容器状の成形品を得ることができる。」(三頁左欄下から四行ないし右欄二行)との記載のあることが認められる。これらの各記載からみても、合成樹脂類で中空物品を製造するにあたり、合成樹脂の管状押出物を成形型内に閉じ込め、加熱された状態において成形とともに密封を行い、次いで成形された中空物品を切断する技術は、本願発明の特許出願前周知であつたことが明らかである。
ところで、第一引用例に、審決認定のとおり、「塩化ビニリゲン樹脂又はその共重合樹脂を管状に押出し、……これを四〇度C以上で重合体の溶融温度以下に保つた成形用金型に挟んで、開口端より流体を圧入して冷間膨張を行わせ、膨張終了と同時に上記金型内面との接触により成形品を熱固定するようにした塩化ビニリゲン系樹脂の配向した中空物品の製造方法」が記載されていることは、当事者間に争いがないことであるから、第一引用例の塩化ビニリデン系樹脂と同じく結晶性の合成樹脂であるモノ―1―オレフインの重合体で配向した中空物品を製造するにあたり、第一引用例及び前記の周知に属する中空物品の製造技術に基づき、管状押出物を成形型内に閉じ込め、その成形型内において密封と配向を伴う成形処理を行うことは、当業者が容易にしうることと認められ、また、管状押出物を前記のごとく成形したのち、その成形品を管状押出物から切り離すことも、前記のとおり、普通に行われているところであるから、審決が第一引用例との相違点<2>として指摘した「管状押出物を成形型に内部が密封されるように閉じ込めて成形し、その後に密封個所から隔つた点を切断し成形品を切離すようにしている点」も、当業者が容易に考えうるところの構成ないしその変更にすぎないというべきである。
したがつて、相違点<2>についての審決の判断には誤りはない。
右のとおり、原告が主張する取消事由はいずれもこれを採用することができず、審決には、これを取消すべき違法の点はない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註その一〕 本願発明に関する事項は左のとおりである。
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和四一年七月一日、一九六五年七月一日アメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、名称を「配向された中空物品の製造方法、製造装置及び製品」(のちに「結晶性配向重合体の中空物品の製造方法」と訂正)とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(昭和四一年特許願第四二八六八号)をしたところ、昭和四五年四月七日拒絶査定がされた。そこで、原告は、同年七月二八日、審判を請求し、昭和四五年審判第六五九二号事件として審理され、その間昭和五四年一月一九日付手続補正書によつて特許請求の範囲を訂正したが、昭和五四年三月二七日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決がされ、その謄本は、同年四月一一日原告に送達された。
なお、原告のための出訴期間として三か月が付加された。
2 本願発明の要旨
「八個までの炭素原子を含む少なくとも一種類のモノ―1―オレフインの結晶性重合体の配向した中空物品の製造方法において、前記重合体を管状に押し出し、少なくともその管状押出物の外面を結晶状態になるまで冷却し、この管状押出物を重合体の結晶融点に近いがそれより低い温度に加熱し、次いで該管状押出物を成形型に内部を密封させて閉じ込め、該管状押出物の壁を延伸して重合体を配向させるよう成形し、次いで該管状押出物の密封個所から隔つた点を切断することを特徴とする上記中空物品を製造する方法。」(別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
図面(一)
<省略>
図面(二)
<省略>